“お寺の知恵拝借”も第8回。最終回になりました。
お寺の庭の落ち着きとすがすがしさを家庭にも取り入れる方法を枡野俊明さんが紹介しています。
どんな小さなことにも心を砕く、知恵を使う、そんな日本人の豊かさを感じます。家庭の中に自然を取り入れる、それは植物を飾るだけではないんですね。
豊かな禅の心と知恵を探ります。
“盆景”は心の庭づくり
“盆景”は心の庭づくりです。
身近に自然を取り入れることで、心が穏やかになり、心を解き放すこともできます。
自然は心にどう作用するのでしょう。
心が解放されるとはどういうことでしょう。
水の波紋、光と風のゆらめき。
こうした人間の計らいを超えた自然の動きこそが、何よりの美しさ。
緑に囲まれているときの心の安らぎ。
そこからふっと視界が開けたときの喜びや解放感。
視界から入ってくるものだけではなく、水音、風の音、小鳥のさえずりが人間の心を解き放してくれる。
大自然に包まれたような安心感。
こういう自然に触れることによって心が解放されることで自分自身と向き合うことができます。
枡野さんは、「美しい庭を眺めることは、座禅と同じ」と言います。
庭を見ることで、姿勢が正され、呼吸が整い、自分自身と向き合えるのです。
でも、なにもお寺に行って庭を見なくても、自分の家で自然に触れることもできます。
大きな観葉植物を用意しなくても、ほんの些細な手短にあるものを利用して、家庭の中で、また自分の部屋で、自然を取り入れることができるのです。
そのやり方を枡野さんが教えてくれました。
盆景と呼ぶにはあまりにも身近なもの過ぎて、戸惑うくらいです。
「パセリの鉢植え用のポッドをお盆に乗せ、石ころを置いただけ」
たったこれだけなのに、そこにできる空間は小さな宇宙です。
使われているものはこれだけなのに、よく見ると全体のバランスがとてもいい感じなのです。
まず、パセリの鉢に対して、パセリのボリュームがたっぷりあること。
お盆が細長くて特徴的で、鉢の回りの石ころの大きさもバランスが良いこと。
ただ、これもパセリの葉のボリュームに合わせてお盆を選んだり、石の大きさを選択することで、また違った盆景をができるのでしょう。
家庭に自然を取り入れるとは?
枡野さんが、ごく普通の家庭で自然を取り入れる方法を教えてくれました。
まず、窓を開けて中と外をつなぐこと。
部屋の窓を開けることによって、外の景色と空気を中に引き込むことができます。これが一番大事なこと。
外の風、気温、光を室内に取り込むことで、自然の光でしばらく時間を過ごす。空気を澱ませてはだめなんですね。
少し浅くて大きめの器に水を張り、外に置きます(庭でも、ベランダでも)。
ただの水面です。何も入れません。
そこに光がさして、部屋の天井に反射します。
つまり、水の反射で外の光が室内に取り込まれたということです。
そこに、大きめの観葉植物を持ってくると、今度は天井に植物の葉の影ができて、その陰影を楽しむことができます。
この仕掛けは日が落ちたら見えなくなります。
ほんのひとときだけの美しさです。
でも、日本の美しさはこの“とどまらない美しさ”なんですね。
とどめられない美しさを尊いと感じる感性が日本人にはあるのです。
この一瞬一瞬で変化する自然の移ろいを日常に取り入れる工夫をすることも、それを楽しむことも“禅の心”です。
盆景をつくることでわかること
小さな石と砂利を使い、お盆の上に小さな庭を作ります。
石には「石心」、木には「木心」、大地には「地心」があります。
それぞれが持っている性格、特性をどうやって生かしてあげられるか。
「石心」を読みます。
石を眺めて、石の勢い、方向性を見るようにします。
器に入れるとき、勢いのある方向が止まるような場所には置かないように。
石の勢いが流れるような場所を選びます。
石の持つ味わいや癖を眺め、素材を生かすこと。
石の正面(顔)を見つけ、どうやって生かすかを考えること。
盆景づくりには自分の心が映し出されます。
焦りや気恥ずかしさ、カッコつけたい気持ちを捨てて、無心に取り組むことが大事なのです。
そうやって、日々盆景をつくることで、
・その日の心の状態が把握できます
・身体を使って自分が感じることで、初めて心と身体が一緒になります
現代社会は字面や情報だけで分かったつもりになってしまいます。
でも、掃除も、掃除をしてみて初めて心地よいと感じる。
滝行も大変だけど、頭がスッキリすると体で覚えます。
つまり主体的に生きるのが禅の生き方なのです。
つまらないことでも自分が「主人公」になって取り組めば主体となってやり抜くことができます。
そうすると面白くなってくるんですね。
「主人公」:
あふれる情報や他人に左右されず自分らしく主体的に生きること。
これも禅語です。
まとめ
そもそも“禅の庭”とは、禅僧が修行で達した境地を庭で表現したもの。
京都、龍安寺の「方丈庭園」など、枯山水の庭園は建物の中から眺める庭です。
かつての日本の家屋は、中と外がつながっていて家の中にいながら四季の移ろいを感じるように作られていたんですね。
日本ならではの価値観と美意識です。
そして、日本人のDNAには確実に存在するものです。